雑談の広場



新規投稿 | ツリー順 新着順 | Entrance Hall


[ 1202 ] Re:落日2-7-1
[ 名前:maxi  [ 日付:2010年11月12日(金) 02時30分 ] 
返信を書く [1182]親コメントを読む [1182]ルートを読む
7   

 着替え終わった彩子の隣に座っている祐介はイライラしていた。
 超音波検査で撮影された写真には、黒い空間に浮かんだ小さな白い影が写っていた。
 温和そうな産婦人科医は彩子に最後の月経がいつだったのかを訊き、その影を指差しながら、
妊娠三ヶ月と診断した。そして、堕胎には肉体的なリスクが伴うことを説明して、彩子の意思を確認しようとした。
「コイツの意思なんてどうだっていい!コイツの躰がどうなろうと構わない。
死ぬわけじゃないんだろ?アンタはおとなしく、この忌まわしい子供を堕ろせばいいんだ!!」
 医師の質問に祐介が立ち上がり、半狂乱に叫ぶ。今にも掴みかかってきそうな必死の剣幕に医師が身を縮こまらせた。
「やめて、お父さん!」
 娘の悲痛な叫びに祐介が振り返る。うつむく彩子は、両手でお腹を大事そうにさすっていた。
「分かってる、分かってるから……」
 漸く彩子は理解した。祐介が自分のことしか考えていないことに。愛していた父親への想いが音を立てて崩れていく。
そして、まだ完全なヒトの形をしていない奇怪な影が、祐介の言う通りに忌まわしいモノにしか見えなくなり、途端に吐き気を催した。
「――レイプされたんです。自分のことしか考えていない、最低な人に。だから、そんな人との間に出来た子は産みたくありません……」
 顔を上げた彩子は泣き笑いの表情で医師にそう告げ、それを聞いた祐介は一瞬顔を強張らせてから彩子を睨み付け、むすっとした表情で椅子に戻った。