雑談の広場



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[ 1226 ] Re:落日3-7-1
[ 名前:maxi  [ 日付:2010年11月12日(金) 02時50分 ] 
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その7   

 着替え終わった彩子の隣に座っている祐介はイライラしていた。
 超音波検査で撮影された写真には、黒い空間に浮かんだ小さな白い影が写っていた。
 温和そうな産婦人科医は彩子に最後の月経がいつだったのかを訊き、その影を指差しながら、
妊娠三ヶ月と診断した。そして、堕胎には肉体的なリスクが伴うことを説明して、彩子の意思を確認しようとした。
「コイツの意思なんてどうだっていい!コイツの躰がどうなろうと構わない。
死ぬわけじゃないんだろ?アンタはおとなしく、この忌まわしい子供を堕ろせばいいんだ!!」
 医師の質問に祐介が立ち上がり、半狂乱に叫ぶ。今にも掴みかかってきそうな必死の剣幕に医師が身を縮こまらせた。
「やめて、お父さん!」
 娘の悲痛な叫びに祐介が振り返る。うつむく彩子は、両手でお腹を大事そうにさすっていた。
「分かってる、分かってるから……」
 漸く彩子は理解した。祐介が自分のことしか考えていないことに。愛していた父親への想いが音を立てて崩れていく。
そして、まだ完全なヒトの形をしていない奇怪な影が、祐介の言う通りに忌まわしいモノにしか見えなくなり、途端に吐き気を催した。
「――レイプされたんです。自分のことしか考えていない、最低な人に。だから、そんな人との間に出来た子は産みたくありません……」
 顔を上げた彩子は泣き笑いの表情で医師にそう告げ、それを聞いた祐介は一瞬顔を強張らせてから彩子を睨み付け、むすっとした表情で椅子に戻った。

 数万円の費用と短い堕胎手術によって、彩子に宿った小さな命の火は消された。
 心と体に空虚を抱えた彩子を待ち受けていたのは、地獄のような日々だった。
 禁酒を破り、以前よりも酒量の増えた祐介によって、彩子は事あるごとに殴られ、蹴られ、躰のあちこちに痣を増やしていった。
毎晩のように寝室に呼ばれ、否応なくレイプされた。嫌がらなければその時だけは優しい父親の顔で犯された。
 酷い扱いを受けていても、行く当てのない、まだ高校生の彩子には家を飛び出すことができなかった。心の片隅にあった、
もしかしたら元の優しい父親に戻るかもしれないという淡い期待も、いつの間にか消えていった。
 抵抗してもしなくても変わらない。ならばまだマシな扱いを受けられるようにと、彩子は抵抗することを止めた。
何を訊かれても父親の望み通りの返答をすれば、嫌な思いをせずに快楽だけは享受することができた。
心も躰も蕩けるような法悦とともに、その間だけはすべての辛い現実を忘れることができた。