2.準備


「え〜アソコの中に虫が入ってくるの!?大丈夫なの?」と和恵は言った。

倉田は絶対とは言い切れないが概ね安全な事や、表には出て来ないが似たような事をしている人は沢山居て、病気になったとかいう話はあまり聞かないなどと、少し卑怯と思いつつもネットによくある例を根拠に説明をした。

倉田が試そうとしている虫はネット上でも殆ど情報が無く、もし実現すれば倉田こそがパイオニアになる可能性があった。

(無論ネット上に情報が無いからといって誰もやってないとは到底言えないが)

「もう、私、倉田さんのせいで、どんどん変態にされちゃう。普通のエッチ出来なくなったらどうするのよ。」と和恵は言ったのを倉田は同意と受け取り、「じゃぁ次逢う時用意しとくよ」というと「わかった。」と和恵は答えた。



倉田が和恵との行為で使おうとしている虫は、アメリカミズアブの幼虫である。

所謂、虫姦と呼ばれる行為は、実際に他種の動物と性交する獣姦と違い、倉田と和恵が公園でしたように、体に虫を這わせたり、あるいは膣や肛門、時には尿道にまで虫を挿入して刺激や、精神的な背徳感を味わう事で、性的な快感を得る行為である。

加虐指向の強いカップルでは、あえて刺す虫や毒虫が使われる事もあるが、通常無害な虫が選ばれる。

特に体内に挿入する虫では、粘膜を傷つけず、体内の分泌物で、溺れ死んだりしにくい虫が求められる。

これまで入手のし易さもあって、サシ虫として売られているニクバエの幼虫や、ミミズなどが使われる事が多かった。

しかし、膣の中などは感覚が鈍いので、小さな虫が少々這いまわったところで、無感覚だったりする。

倉田は随分以前だが、当時付き合っていた女性と、サシ虫やミミズを挿入するプレイの経験があったが、入り口の所で、少しモゾモゾする感じが判る程度で、さほど気持ち良くないと女に言われた事があった。

そこで倉田が思いついたのが、アメリカミズアブの幼虫を使ったプレイなのだが、実践に付き合ってくれる相手など、そうそう巡り合えるはずがなく、倉田は一人で虫について研究していた。



アメリカミズアブは何処にでもいる、ありふれた虫だが、現在のところ、日本ではあまり流通しておらず、虫を買う事は一般には難しいと思われる。海外ではフェニックスワームという名で、爬虫類の餌としてや養殖漁業や養鶏などの飼料としてかなり流通しているようである。非常に栄養価が高く生産性も高いので、人間の食料としても研究されているくらいである。

しかし、生ゴミ処理のコンポストなどを、庭にでも置いておけば、この虫は簡単に手に入る。

アメリカミズアブの幼虫の特徴は、何と言っても蛆状の幼虫が3センチ近くまで成長し、非常にパワフルな事である。

また非常にタフな虫であり取り扱いも容易である。



しかし腐敗した生ごみや、糞便、腐った死骸といったものに発生する虫を、捕えて、そのままプレイに使うわけにはいけない。

倉田は2センチ余りに成長した虫を選んでピンセットで小瓶に入れていった。

あまり大きな虫はすぐ蛹になるので身体も硬く、動きも悪いように思う。

必要な分、虫が捕れたら小瓶に水道水を流しこみ軽く振りながらよく虫を洗う。

虫を流さない様に気をつけて水を捨て、何度か綺麗になるまで繰り返す。

そのまま瓶を密閉し翌日また虫を洗う。

翌日には虫の排泄物で、瓶の中はドロドロになっているはずである。

これを虫が排泄しなくなるまで繰り返す。倉田の経験では、だいたい3日以上やれば綺麗な虫が出来上がる。

鼻を突く悪臭の汚泥に住んでいた虫も、この頃には、ほぼ無臭になる。

しかし、これで下準備が完了では無い

アメリカミズアブはハエの同じ双翅目(ハエ目)の昆虫だが、この仲間の幼虫の多くは、口鉤と呼ばれる鋭い鉤を口に持っており、これを引っ掛けて移動したり、餌を砕いたり穴を開けたりと、虫にとって重要な器官である。



サシ虫などではサイズが小さいので、あまり問題にならないが、大きく力の強いアメリカミズアブでは、粘膜を傷つけてしまう可能性がある。ましてや絶食させているので、身体の組織を餌として食い付いて来る恐れもある。

通常腐敗した物しか食べない虫だが、虫姦の状況は通常ではないので、通説が通用しない可能性もある。高温にも強く低酸素にも酸性にも耐性のある虫が、膣内で野放しになればどうなるか分からない。

そこで倉田が考えた方法は瞬間接着剤によって、虫の口鉤を固めて無力化する方法である。



まず虫が濡れていれば、新聞紙の上などを這わせて水気を取る。

瞬間接着剤を一滴どこかに垂らし、そこにピンセットで挟んだ虫を持っていき、虫の口を接着剤にチョンと着けると上手くいきやすい。沢山つけすぎると虫が固まって死んでしまうので、ほんの僅かでいい。多くつけると固まるのにも時間がかかる。

アメリカミズアブはピンセットで摘まむと擬死(死んだふり)する習性があるのか、大人しくなるので、割と作業はしやすい。

処置の終わった虫は、接着剤が固まるまで、ボール紙の箱など、吸湿性のある容器の中を這わせておき、時々箱の底や壁にに口をひっ付けてしまう虫がいるので、すかさず引きはがす。沢山処理する場合は虫同士がひっついてしまう場合もあるので注意する。

接着剤が固まったら、また瓶に戻しこれで虫の下準備は完了である。

この状態で3日程は元気な状態を保っているようだが、長く置くと動きが鈍くなったり死ぬ個体も出て来る。

処置したら早めに使う方が無難だろう。



こうして倉田は30匹ほど処理した虫を入れた小瓶を鞄に入れ、翌朝仕事に持って出た。

仕事帰りにそのまま和恵と落ち合う予定である。

鞄の中には、その小瓶だけでなくいろいろ小道具や秘密兵器も入っていた。



[目次] [1.序章] [3.虫遊び]